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安茂里白土の崖(長野県)

2020年2月3日(月)


長野駅を発車すると、東京方面に向かって右の車窓にまず見えるのが旭山から富士ノ塔山への山並み。その山肌に大きな白い崖が見える。そこだけすっぱりと木々をなぎ落としたように光っている。新幹線からは一瞬で過ぎ去ってしまう景色だが、迫力がある。

白土の崖
白土の崖

2最初に出会った白い壁
最初に出会った白い壁

暖冬のせいで雪もなく暖かい節分の日、思い立って白い崖を見に行くことにした。夫が地図を調べて見当をつけた山道を、気分に任せて歩いてこようという計画。長野駅まで歩いて、一駅だけ電車に乗って・・・と、鉄ちゃん(鉄道好き)らしき計画だったが、歩いていたら信州新町行きのバスがやってきた。

3稜線
稜線

「バスにしようか」、計画変更は一瞬。目の前のバス停から乗って、目指す山道近くまでバスの客になった。安茂里駅を過ぎて少し走ったところの停留所でバスを降りた。 舗装してない道が山に向かっている。その道を進むとすぐ目の前に真っ白い壁がそびえている。青い空、頂に数本の木を乗せて、真っ直ぐ立っている。

4削られた崖の上にも大木
削られた崖の上にも大木

「すごい」「近くで見えたね」などと話しながらさらに道を行く。白い壁は奥へ続き、その下には水が流れている。どんどん行くと、砂防ダムのようなものが奥に見え、道はそこまでのようだった。私たちはその道を上まで行ってみることにした。白い壁は1枚ではなく、沢で分けられていくつかの襞のように入り組んで見えている。それぞれが数十メートルもの崖となって続いている。

5いくつかの峰になっている白土
いくつかの峰になっている白土

6垂直の壁
垂直の壁

奥はどうなっているのだろう。さらに登ると、さっきの崖の奥に一段と純白の崖が現れた。上部には木が生えているが、途中はえぐれているようにも見える。

少し先までの道は、資材置き場のような広場で行き止まりのようだ。鳥の声に包まれ、美しい壁を見上げ、しばらくの時を過ごした。

7削った跡か
削った跡か

山道を降りて行くと、下から小型のキャタピラ車が登ってきた。運転していた男性が車を止めて話しかけてくる。こんな行き止まりの山道を歩いている者などほとんど見ないのだろう、どうしたの?と聞いてくる。「新幹線から見える白い崖を見たくて来たんです」「あの白い岩は何ですかね」と話すと、笑顔になる。「あれは白土と言うんだよ。岩の名前は知らないけれど」と話し出す。「40年くらい前までは白土を採っていたんだよ」と。ここから採った白土は工業用の研磨剤として使われていたそうだ。発破をかけて採ったと教えてくれた。 にこやかに話してくれた男性と別れて、私たちは下の道に戻った。

8高いとところに木の実
高いとところに木の実

駅に向かって少し歩くと、また山へ向かう道がある。崩壊危険地域との看板が出ている。舗装されていない道が、荒れた森の中へ続いている魅力的なところだ。鳥の声が近い。

ふと見ると奥の木の枝に黒い鳥がいる。鳩?いや違う、私たちが近付いたからかピューッと一直線に飛び去った。羽の先が尖っている。小型の鷹だ。一瞬にして行ってしまったけれど、あれはハヤブサ。

我が家から歩いて行ける裾花川沿いにも、小規模だけれど白い崖がある。孫たちが長野に来るとみんな見に行って感動する。これを書いている2月後半にも二人の孫と行った。そこにハヤブサが住んでいると、出会った野鳥に詳しい男性に教えてもらった。ハヤブサにはなかなか会えないが、カワウが飛び立つ様子を見て喜んだのもいい思い出だろう。

9水量が多い裾花川と白い崖20180322
水量が多い裾花川と白い崖 2018.3.22

10白い崖を見上げる20180325
白い崖を見上げる 2018.3.25

11白い崖が光ってる20180325
白い崖が光ってる 2018.3.25

12真冬の裾花川白い崖
真冬の裾花川白い崖 2020.2.19

さて話を戻そう。枯れ草の海になった道を進む。左奥の森の中には果樹園らしき広がりがあり、果樹園の周りには白い板状の柵がぐるりと立ててある。「イノシシ除けだね」「この辺も多いみたいだね」。私たちは話しながらさらに少し登った。夫の後ろを歩いていた私の脇の笹が揺れた。私は何かが落ちてきたかと思って、前を行く夫に話しかけた。「ねぇ、何か・・・!」、落ちてきたみたいという言葉は声にならなかった。すぐ脇の側溝にうごめく毛皮のようなものが見えたから。落ち葉で埋もれた溝の中を60〜70㎝くらいの灰色の毛皮がゴソゴソ動いている。

これ、イノシシ?!

13イノシシ
イノシシ

彼(彼女かもしれないが)は、私に気づかず、ひたすら落ち葉の下をほじくって何かを食べているようだ。時折首を振って、硬そうなものを食いちぎるような音がする。私はしゃがんでカメラを向けた。こんな近くに人がいるのに気づかず夢中で食事をしているイノシシ君、きっとお年寄りだ・・・。よく見れば毛皮というよりシワシワの硬い皮のようなものに覆われていて、頭の後ろから背中にかけて一筋黒い毛がなびいているだけ。枯れ草の中に隠れているので、なかなか頭の部分が見えないが、時折覗く目は睫毛に覆われているようで優しい。 私はしばらく見ていたが、ふと彼は顔を上げた。道の上の方を見た。その後は一瞬だった。

14落ち葉の中に頭を突っ込んで
落ち葉の中に頭を突っ込んで

15枯葉の下にイノシシ
枯葉の下にイノシシ

すごい勢いで私の横を駆け、後ろの藪の中に去った。どうやら道の上の方で夫が動いたのを察したらしい。

私たちは、思わぬイノシシ君との遭遇に少し興奮して、いつもよりちょっぴり口数多く話しながら駅までの道を歩いた。帰りは一駅だけの電車の客となった。

16帰りは電車で
帰りは電車で




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