この季節になると心が騒ぐ。頼朝山のどこかに咲くという花を見たくてウズウズしてくる。だが国土地理院の等高線入りの地図を拡大して見ながら歩き回っても、その花は見つけられない、幻の花だ。
昨年までには東側の沢を何度も上下し、北の葛山へ続く沢も道のないところまでよじ登ってみた。西を回る中腹の道は2本あり、どちらも歩いてみた。上の道は荒れに荒れ、倒木が重なり、崩れた岩が道を覆っているところもあった。何度も歩いて、結局見つけたのは1本の鹿の角。
昨年の最後は「もういいや」と諦めた・・・つもりだったが、またやはりこの季節になると一度は行ってみたくなる。どんなに歩いたと言っても人が歩く道筋は線になる。広い山肌の面上をくまなく見ることは難しいのだ。だから、また行きたくなる。まだ歩いていないところがあると思ってしまう。それにしても少しでも踏み跡があれば踏み込んで藪の中を木の枝やトゲと格闘しながら歩いているのに、緑の葉が見つからないのは悔しい。
と言いながら、今回もちょっともらったヒントの「山の西側」を重点的に歩いてみたが、結果は発見できず。「まぁ、色々な花に出会えたからいいか。道なき道を歩いても怪我もしなかったし」と帰ってきた。
登山口にはホタルカズラが綺麗に開いていた。登る時にはまだピンク色の花も多かったが、降りてくるとブルーに変わっているものも増えていた。クサノオウ、カキドオシ、そしてオドリコソウが一面にふさふさ揺れている。我が家の庭にも増えてきたムラサキケマンはもう花の終わりのようだ。下の方は白っぽく茶色っぽく萎れている。
オケラの芽が伸び始めている。センボンヤリは赤色を纏った蕾が多いが、かろうじて開き始めた白にも会えた。そしてたくさんのタチツボスミレが目を慰めてくれた。ヤマツツジの蕾が赤く膨らんで今にも開きそうだと思いながら登っていくと、日当たりの良い斜面に開いた花が見えた。
頼朝山も今年の雪や強風の影響を受けたのか、登山道に大きな松が倒れていた。久しぶりに登ったので、大きな倒木に驚いた。
さらに登って振り返ると善光寺平の広がりが見える。足元を見下ろすと、裾花川が濃い緑色になって流れている。ところどころに白い筋が現れて消えるのは風が立てる波だろう。咲き残った桜と咲き出したヤマツツジが彩り豊かだ。目の前の旭山の斜面にはまだ山桜が白い点描を描いている。
山頂に登って小さな祠にお参りして、さて今日の目的は西の斜面を歩くこと。山頂から道らしき跡に入るとすぐに灌木が茂り道は消えている。なんとか踏み跡を探して進んでいくが、急斜面にトラバースするように続く道は荒れ放題。
落ち葉や枯れ枝が積もっているのは当然としても、岩崩れのような跡もある。近くの立木につかまりながら越えていく。ぐるりと回って出たところには「頼朝山展望台」の道標が残っていた。いつ建てたのか、もう一つの看板は腐って下に落ちている。この道を行くのは私のような変わり者だけだよなぁと呟きながら少し登って葛山から続く登山道に出た。
しばらく迷ってから静松寺の上のリンゴ畑から葛山へ続く登山道を行ってみることにした。満開のリンゴ畑の白と、畑に広がるタンポポや菜の花の黄色が重なって美しい風景だ。そしてその向こうに五竜岳が真っ白に光っている。
しばらく風景を眺めてから登り始める。斜面の緑に惹かれてまたもや道なき道を彷徨い歩くが、お腹も減ってきたので登山道に上がる。
やっぱり今日も諦めるしかないなぁ。どのコースから帰ろうか、迷って行ったり来たりを繰り返してから、決めた。静松寺まで降りて昔の人が歩いたという戸隠古道を戻ろう。
ぐるりと大きく巻いていく道を歩きながら祀られた石仏に挨拶する。昔の人が道中の無事を祈って祀ったのだろうか、里山を歩いていると見かけることが多い。
最初に夫と探索の沢登りをしたのは東側の沢だった。さて、何度目の探索登山になるだろう。会いたかった花には今度もまた会えなかったけれど、たくさんの道端の花、頭上に揺れる木の花に会えたからよしとしよう。