どうやら雪も溶けたらしい。お天気は下り坂だが午前中は持つのではないかと早い時間に出かけた。早いと思って行ったが、森林植物園の駐車場に着くとすでに車がいっぱい。端に空いていたスペースに車を止め、足元を整えて歩き始める。オオヤマザクラが綺麗なピンク色だ。みどりが池には白と黒がくっきりとしたキンクロハジロが浮かんでいる。大きく羽ばたきながら湖面に降りた1羽に、「お帰りなさい」とでも言うようにす〜っと寄り添っていくカルガモ。水上にもドラマが見えるようだ。
森の中に入って行こうと歩き始めるとキョッキョと言う声がする。少し離れた木に赤い色が見える。オオアカゲラだ。数本の立木の周りを何か話すように鳴きながらうろうろしている。その時は結婚の申し込みをしているのかと思ったが、家に帰って調べたら、どうもどちらもオスだったらしい。それほど険しい雰囲気は感じなかったけれど、牽制しあっていたのかな。
しばらく眺めてから、小さな池のあるところに向かった。池に近づくと2羽のヒガラが飛んできて水浴びを始めた。一度立ち去ったが、またやってきて、私の目の前1メートルくらいの木の枝に止まって再び水辺に降りた。こちらの存在は全く無視している感じだ。
このヒガラは草原に移動してしばらく枯れた草などを咥えてうろうろしていた。巣作りなのだろうか。
水中にはクロサンショウウオの卵と、ヤマアカガエルらしい卵が見える。山椒魚の方は白い半透明の塊に見えたが、蛙の方は透き通った卵の中に黒い蠢きがあり、すでに成長して頭の形が見えるようだった。私は花を見たくて山に森に高原に足を運んでいるが、動物たちにとっても忙しい子育ての季節なのだと感じた。
針葉樹の下には昨年の木の実がたくさん転がっていて、その形も様々なのが面白い。夫と二人で拾ってみてはそれぞれ比べてみるが、どの木の実なのかわからない。
遊びながら歩いていたが、目的のセリバオウレン自生地を目指す。小さな春の花が咲き出しているのを楽しみながら歩く。セリバオウレンは数年前に実を見つけたが、花の季節に出会っていなかったから、今年こそはとやってきた。そして、綺麗に咲いていた、セリバオウレン。オウレンの仲間を見つけるといつも思うが、花火が弾けたような華やかさだ。
ようやく会えた戸隠高原のセリバオウレン、しばらく花見を楽しんでから水芭蕉群生地に向かう。歩き始めたら、木道に三脚を立てて同じ方向にカメラのレンズを向けているグループに会った。「クロツグミですよ」と、固定した単眼鏡を覗かせてくれたが、クロツグミは向こうを向いて止まったまま動かない。長旅をしてきて疲れたのかなぁと野鳥観察のグループの人は苦笑いしていた。
野鳥観察の人がいっぱいいる森の中、私たちは花を見ながら歩いていく。キクザキイチゲがたくさん見えるが、みんな筒のように花を閉じている。今日の曇天ではなかなか開かないのだろうか。少し開いている花を見つけて撮影していると大きなレンズをつけたカメラを持った男性がなんと言う花ですかと聞く。教えてあげると奥さんに撮っていってあげようとすごいカメラで撮影した。撮った写真を見せてくれて確認する。名前、覚えていられるかなぁ・・・などと思いながら別れた。
湿原は水芭蕉が咲き始めた。まだ葉が茂らない木立の向こうに戸隠山が透けて見え、出始めたばかりの純白の水芭蕉が広がっている。花と一口に呼んでいるが、白く目立つのは仏炎苞(ぶつえんほう)で、葉が変化したものだそう。その中に伸びた花茎があり、ここに小さな花が集合している。肉穂花序(にくすいかじょ)と言うのだそうだ。肉穂花序を近くで見ると黄色いぶつぶつがたくさんついていて、これが一つ一つの花。1本の雌しべと4本の雄しべがあり、先に雌花が成熟して、その後から雄花が成長してきて花粉を飛ばす仕組みらしい。雄しべは花粉がついているのでわかりやすいが、そこに雌しべが隠れているのか、近づいてみてもなかなかわからない。しかも、気がつくともう全体が雄しべになってしまっていることが多い。
時々花の中を覗き込みながら木道を歩いていく。まだ小さくて可憐なミズバショウはこれから少しずつ大きくなっていく。緑の葉が茂る頃には森は夏景色になるだろう。
木の芽や、花の蕾、残っている去年の実など、一つ一つに感動しながら森を後にした。