雨模様の日が続く。朝晩寒いくらいだが、日中日が登ると暑い。自分がわがままなのか、天候がおかしいのか。考えていても仕方がないので、晴れ間を見つけて出かける。ようやく粘菌の姿をいくつか見ることができたので、茶臼山に行ってみよう。粘菌も期待できそうだが、昨年見つけた葉がサイハイランかどうか、花の季節に行ってみようと話していた。
植物園の駐車場に車を停める。この季節の植物園には誰も来ないのか、車は我が家の一台だけ。歩き始めると鳥の声が賑やかだ。一面に咲いているのはシロツメクサ、アカツメクサ、そしてコメツブツメクサ。背の高いのはハルジオン、ヘラオオバコにギシギシか。
動物よけの柵を開けて登山道に入っていく。ケキツネノボタンの黄色、ヘビイチゴの赤い実、道は彩り豊かだ。茶臼山一帯は地滑り地帯、中腹に崖崩れの現場があったが、そのための修復工事か、大型車が入っている。私たちが粘菌を楽しみにしていた倒木の山が綺麗に無くなって、そこにはパワーショベルが置いてあった。今日は工事がお休みらしく人の動く気配はない。
最初の粘菌観察場所は無くなってしまったが、気を取り直して登り、サイハイランらしかった葉のあったところへ行く。やっぱり、いたいた。あっちにもこっちにもすっくと立ったサイハイランの花穂。嬉しくなってたくさん写真を撮った。サイハイランの花は下向きにひっそり開くので、なかなか花の姿が見られないが、内側には美しい紫と黄色が隠れている。
サイハイランに会えたので気を良くして森の中を登っていく。今日は遠くの山が見えそうなので、山頂へ行くのは後にしてまずアルプス展望台に向かう。
北アルプス北部が目の前に見えている。この季節、雨も多いし薄霞は仕方がないが、思ったより綺麗だ。私たちがアルプスを眺めていると女性が一人やってきて「久しぶりに今日はよく見えますね」と話した。近くの人か、よく来るらしい。
女性はしばらく眺めて引き返していった。私たちはアルプスを眺めながらおやつを食べた。遠く南の槍ヶ岳、穂高連峰も見えている。
さて、まだ粘菌が見つからない。少し先まで足を伸ばしてこようか。深い森の中をてくてく歩く。この道は緩やかに降っている。「あ、また帰りが上りになるコースだ」と笑いながら歩く。以前にもここを歩いて、帰りはひたすら登ることになった。まぁ、いいか、緩やかな傾斜だ。
そして、見つけた。粘菌マンジュウドロホコリ。表面が銀色に光っているが、真ん中に凹みがあり、大きなマンジュウ型になっていない。何かに食べられたか、ぶつかったか、ここだけ凹んじゃったようだ。
粘菌の発見に気をよくして一本松の出会いまで行く。だが、結局他には見つけることができない。花の姿も少なく、ハナニガナが揺れているのが見えるばかりだ。
一本松から引き返し、茶臼山の山頂に向かう。ゆっくり登りが続く。道の両側に広がる森は緩やかな斜面にどこまでも深く広がっている。地元の人に大切にされてきた歴史を感じさせられる。 登り返して、途中見晴台を横目に見たが、雲が多くなってきてアルプスは霞んでいる。やっぱり先に見に行って良かった。
展望台を通り過ぎて、山頂への道に入る。この辺りは針葉樹の森になる。トウゲシバらしい緑が広がっているところもあるが、針葉樹の森は地面に緑が少ない。暗い森の中を通って山頂に立っても展望もないのですぐ引き返す。山頂近くで男性とすれ違ったが、彼もすぐ引き返してきた。その男性は山頂に来る前に展望台に寄ったらしく、「この季節、展望は難しいですね」とつぶやく。「やはり朝のうちがいいんでしょうね」と言って、降りて行った。よく来ると話していたから、また展望の良い日に登るだろう。
粘菌が見つけられないので、ちょっとガッカリしながら私たちも山を降りる。朝は植物園の下の方から入ったが、帰りは上の柵を開けて植物園に入る。
一面に広がるシロツメクサ、アカツメクサ、そしてコメツブツメクサの中の散策路をゆっくり歩く。フジの棚が続いているから、フジの開花時にはきっと人がたくさん来るのだろうけれど、今は静かだ。花を求めて蝶がひらひら飛んでいる。小さな蝶が多いようだが、ヒョウモンチョウもやってくる。みんな何を食べているのだろう。
頭上にはクリの花が膨らみ、オニグルミはもう実が大きくなってきた。自然は動き続け、その途中の一点に立ち会うことができることを小さな喜びとして、また私たちは山の中へやってくるだろう。