娘がやってきた。忙しい日々を送っているけれど、休みが取れたのをチャンスに新幹線に乗ってきた。長野はちょうど梅雨が明け、連日暑い。ただ、梅雨明けの空気は乾燥していて、朝は涼しい風が吹く。太平洋岸に住む娘のところは湿気が多いから、カラッとした空気が嬉しいと言う。
特に山が好きというわけでもないけれど、小さい時から親の趣味に付き合わされてきたから、長野に来ればどこか山の空気に触れるところに行くことになるだろうと、準備をしているところが面白い。
さて、では志賀高原にでも行こうかと天気予報を見ると、午後から雨予報 90パーセント。これはダメだ。では・・・あちこち考えたが、北方面は軒並み午後から雨という。
では、南に行って見晴らしを楽しもうかと、ゆっくり出発。目的地は聖高原。茶臼山動物園の下を通り、長谷観音の下を通り、稲荷山養護学校のおしゃれな建物を眺めて走り、山道に入っていく。姨捨の棚田を見下ろしながらグイグイ登ると聖高原の高台に着く。しばらく走ると左に聖湖が見えてくる。
今日は山登りではなく、高原の空気を満喫しようという計画、三峯山には夏リフトが運行しているというからそれに乗ってみよう。昨年は息子親子が聖高原のスカイライダーに乗って遊んだというが、私たちはスカイライダーには気持ちが向かない。
車を降りるとリフト乗り場に行く。冬はスキー場になるところだが、ゲレンデは小さく、リフトも短い。あまりスキーをやらない娘も「狭いゲレンデだね〜」などと言っている。
リフトに揺られていくと濃いピンクのヤナギランが風に揺れている。聖高原の案内を見るとウスゲヤナギランの群生と書いてある。私はウスゲヤナギランという名前を初めて知った。葉の縁に欠刻状の小さい鋸歯があり、葉裏の主脈に毛があるそうだ。
リフト上からでは細かいところはわからないので、リフトを降りてから山道を少し歩き、近づいて見たのだが、その違いははっきりわからなかった。
さて、あっという間に山頂到着。青い空がどこまでも広がっている。そして爽やかな風が吹いている。善光寺平を遠くまで流れていく千曲川が見えている。山頂の木陰に座ってしばらく展望を楽しんだ。少し山道を歩けば草の香りがする。足の長いバッタがあちこちにピョンピョン跳ねて、時には私たちの手に止まったり、ズボンに止まったりする。虫の嫌いな人はダメだね〜などと笑い合える私たちは大丈夫。家に帰って夫が調べたところ、この虫はアシグロツユムシ、キリギリスの仲間らしい。虫の世界は実に奥深く広い。
オトギリソウ、アザミ、トリアシショウマなど野草の花は強い日差しの下でちょっと元気がない。ここは雨が少ないのだろうか。
しばらく山頂の展望を楽しみ、山頂周辺を散策し、再びリフトで降りる。山慣れしない娘にも十分歩ける山道だが、あまりにも暑いので今日は聖湖を見下ろしながらリフトに揺られていく。高原の花を見下ろしながらリフトに揺られる時間もたまにはいいものだ。
お昼になったので、湖畔のレストランで腹ごしらえをしてから、湖一周コースを歩いてみよう。森の中は日差しが遮られるから歩きやすそうだ。湖には岸に沿って長い桟橋が造られ、釣りの人たちが座っている。大きな傘をさしてじっとしている姿を遠くから見ると全く動いていないように見えるが、岸から見下ろすと、時々竿をあげている。「釣れているんだ」と、私たちは顔を見合わせて釣った魚をビクに入れるのを見下ろす。
イチヤクソウ、フタリシズカなどが、まだ若い実をつけている。湖岸を歩く道には小さな花の名前をつけた札が立っているが、真っ黒になっていて名前が読めるのはほとんどない。しばらく歩いて一つ名前が読める札があったので「これは名札だったんだ」とわかった。
森を抜けて崖が迫った道に出ると、ママコナの赤い花が満開だった。ママコナは私たちの住む善光寺平北部の裏山にも咲くが、聖湖周辺に咲くママコナは全体の姿が大きい。湖畔にはタケニグサが一塊になってぐんと伸びている。粉っぽくて、傷をつけると白い液が出て、あまり好かれないようだが、私はその高く伸びた柔らかい姿が好きだ。
そろそろ終わりという頃に、娘が「何か実があるよ」と指差す。綺麗なオレンジ色に光る木苺のような実がいくつもついている。ツブツブとしたまん丸い実で、切れ込みが入っている葉が数枚見えるが卵形の葉が多い。ヒメコウゾの実ではないだろうか。
みんなで花や実の姿を楽しみながら聖湖を一周し、車に戻った。
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