雪はそれほど積もっていない。友人が心配して電話をくれたのは23日、「いっぱい積もっていますか?」。2センチもないかなというと、びっくりする。寒いけれど、南アルプスの麓に暮らす友人のところはマイナス10℃というから、長野の方が暖かい。日中はかろうじてマイナスを脱する。
23日は太陽が顔を出したので、日が登るにつれ気温も上がったようだ。それでも、我が家の庭に1センチメートルというと、山にはもっと積もっているだろう。カバンにアイゼンを入れて出かけた。
1月の半ばから、何度登っているだろう。愛されている地附山にはほぼ毎日登っている人たちがいて、山道で会うと立ち話をするのも楽しい。人の噂話などには興味がない人たちなので、天気模様、森の様子、そして見晴らしがどうかなどと、日によって変わる自然のことを話す。それが私には気持ちが良い。春になればあの花が咲いたよなどという話にもなる。頻繁に登っているが、もちろん同じ日はない。その日のテーマのようなものがある。木の実だったり、冬芽だったり、霜の造形美だったり、動物の足跡がいっぱいの日もあれば鳥の姿がたくさん見られる日もある。
登り始めから降りてくるまで誰にも会わない日もあれば、何人もの知った顔に挨拶する日もある。言ってみれば当たり前のことでしかないが、実際にそういう日々を積み重ねると、なんだか楽しくなってくる。
今年になって大雪のニュースを何度か聞いたが、長野はまだそれほど積もらない。だが、空模様は日々大きく変化している。風がとても強い日もあれば異様に気温が上がって暖かい日もある。
遠くがどんなふうに見えるか、1月のテーマは飯縄山(いいづなやま)にしようと、一人頷く。毎回登るたびにその雄大な姿を眺めるのが楽しみな飯縄山だが、登れば必ずカメラに収めた訳ではなかった。今月は登るたびに、しっかり撮影してみよう、そう決めたら山頂まで行くのが一段と楽しくなった。
10日に登った時に見つけた粘菌はその後気温が下がったからか、一度は雪に覆われたせいか見なくなった。春まで活動はお休みかな。黄金色のヌカホコリを見ていると、その近くに直径が1ミリにも満たない胞子嚢をつけた、小さな小さな糸のようなものが見える。これも粘菌には違いないが、図鑑を見ても特定できない。カビがついてしまっているのも多いからだ。とても小さいうえに、撮影が困難な倒木の切れ目などに顔を出している。何度も見に行って近づいて、ようやく分かるようになるかもしれない。今はその過程を楽しむしかない。
雪が積もると、野生動物の足跡が見える。とは言ってもはっきり分かるのはノウサギとイノシシくらいで、時にはシカかイノシシか判別できないこともある。リスやテンも姿は見たことがあるけれど、足跡では区別がつけられない。
23日は積もった雪の上をまだ誰も歩いていなかったので、登山道を頼りに進む動物たちの足跡が見えて面白かった。「動物も人と同じ道を歩くんだね」と、私が笑いながら言うと「そりゃ、彼らだって踏み固められたところが楽でしょう」と夫。それにしても今日はいっぱい足跡があったねと話しながら歩いた。
そして、樹上が賑やかだ。小鳥のことはほとんど分からないが、木の実を突いている姿を見ることは多い。この日は行く先々でコゲラがコンコンと音を立てていて、何羽も近くで見ることができた。かなり高いところで木の実を啄んでいる小鳥たちも見える。
逆光、コンバクトカメラ、被写体の動きが早いなどの悪条件をものともせず、しばらく追いかけるのだが、なかなか写真は撮れない。フィルム時代なら最初から諦めていたところを頑張ってしばらく挑戦してみる。ヒレンジャクの群れらしいのが、ホザキヤドリギの実のあたりでかなり長い間突いていたのだが、手前の枝に隠れてしまい、うまく撮れなかったのが残念だ。
大型の鳥は綺麗に撮れるかと言うと、やっぱり難しい。一度カラスが変な羽ばたきをしているので思わず見ていたが、まるで踊っているように一点を中心に大きく羽を動かしてはくるりと回っている。その中心にアンテナらしい柱があってそこにノスリがとまっている。どうやらカラスはノスリを警戒しているようだ。この変な舞をするカラスは前にも見たが、その時も電柱の上にノスリがとまっていた。自然界ではどんな縄張りで生きているんだろうと首を捻りながら見上げていた。
24日は午後から雪になる予報なのでいつもより早い時間に歩き始めた。歩き始める頃からチラチラと細かい雪が舞っているので、展望は望めないだろうねと話しながら登っていく。パワーポイントから見下ろすと、長野の街も白いモヤの下に消えている。もちろん志賀方面の山も白い世界に消えている。 山頂に行くとやっぱり飯縄山も白いヴェールの向こうだ。長居は無用とパワーポイントまで降りてくると、さっきまで見えなかった山々が見えている。 長野の街も日を受けて屋根が光っている。たった30分ほどで一気に街の上の雲がなくなっているのに驚く。そういえばさっきまでチラついていた雪も落ちてこない。とは言うものの、さすがに冬型が強いという北の山の上には雲が乗っているようだ。晴れれば志賀から菅平の山々が綺麗なのだが。
いつも晴れるとは限らない冬山だから、晴れた日は登りたくなる。27日は午前中用があって、家に帰ったのは1時過ぎだったが、珍しくポカポカと暖かくなってきたので出かけることにした。夫も午前中動いて疲れたらしく、登山口まで車で送るよと言っていたが、私が準備をする様子を見ていて歩きたくなったらしく「一緒に登ろう」と言う。
道の状態がわからないからアイゼンはカバンに入れて来たが、少し乗った雪は溶けていて歩きやすい。途中ですれ違った人は6本爪のアイゼンを履いていたが、雪が大きな団子になってくっついていて見るからに歩きにくそうだった。今日はアイゼン無い方がいいかもねなどと話しながら登った。山の上は木々に乗った雪が白く光っていて別世界だ。
1月も終わりに近くなって5センチほどの雪が積もった。前に降って残った雪もあるから山はもっと多いだろう。30日は朝からいそいそと支度をして雪の地附山を歩きに出かけた。駒弓神社に挨拶して歩き始める。山肌は一面に白くなり、木々の枝も白く積もって冬山という景色になっていた。積もった雪は柔らかく、凍っていないので歩きやすい。
一気に山頂へ行ったが、北の空は雪雲に覆われていて飯縄山は全く見えなかった。時々空からパラパラと落ちてくるのは北の雪のおこぼれかもしれない。今日たった一人出会った人と山頂で話をして、あとは一気に滑るように降りてきた。