今年の冬は雪が少なかった。これは長野の話。北陸から東北にかけて、お隣の新潟県ももちろん大雪だったというのに、長野はまるで降らない。何回か白くはなったが、雪かきに精を出すほど積もることはなかった。暮らしにはありがたいが、水不足が心配だ。農作物に影響がないだろうか。
そんな話をしながらも、歩きやすい日が続いたので裏山に出かける回数も増えた。冬は空気が澄んで見晴らしが良いので、1月に続いて山頂での飯縄山をテーマにしようと呟きながら登ってきた。樹木にもっと詳しければ冬芽や葉痕なども楽しめるのだが、なかなか楽しむまで行かない。小さな冬芽を見ては「この木は何?」と呟いていることが多い。
冬の木々は葉を落としているので小鳥の姿が見えやすくなっているけれど、彼らは動きが早くて、なかなか見つけられない。可愛い声を聞いて、スーッと目の前を横切っていくのを見つけて「わぁ〜、いた!」と喜んでいるくらい。一度だけ公園の方に降りたら、ちょうど野鳥観察に訪れていた西澤さんに会った。この木にルリビタキが来るんですよと教えてくれ、まさにその時ルリビタキのオスがスィーと飛んだ。綺麗な青い色を残して消えていったが、その翌日私も少しそこで待ってみた。15分待っていたら、ルリビタキのメスらしい小鳥が飛んできた。しばらく木の枝を飛びかっていたが、飛ぶと青い色が光るのに、止まってしまうととても小さくて地味で見えなくなってしまう。たった15分待っただけで疲れてしまった。野鳥観察の人たちはすごいとつくづく思った。
私は気が短いので、何十分もじっと待つなどということが難しい。それでも冬の山は木の葉が落ちて隙間から空が見えている。そこにやって来る小鳥もたまには見えることがあるから嬉しい。
雪が少ないと言っても山頂辺りにはずっと残っていた。そして時々夜に降った雪が白く薄く積もっている。雪の上に残る動物の足跡を探すのも冬の楽しみだが、今年はうっすらと積もったくらいの雪の上なので、あまり綺麗に残っていない。猪と鹿の区別もつかないのは悲しいと思うのだが、まだ判定が難しい。もっともっとじっくり見たいものだと思うのだが。
春になるとあちらこちらで違う花が開く地附山は楽しみが広がるが、この季節はつい同じコースを登ったり降りたりしてしまう。ただちょっとだけ体を鈍らせないようにしようという気持ちも働くので、比較的急なコースを選んで歩くことが多いのだが。緩やかなコースをたまに歩くと発見もあるのが、山の侮れないところだろう。キイチゴが自然のままにドライフルーツになっていたり、松ぼっくりを誰かが齧ったようなのがたくさん転がっていたり、小さな発見も面白い。
白と茶色の冬の世界にところどころ緑が見えると嬉しくなる。それはタチツボスミレや、サジガンクビソウ、ツルリンドウなどの春を待つ草だったり、ヒイラギ、エゾユズリハ、イヌツゲなどの常緑低木だったりする。私はその種類の多さと、似たような姿に惑わされてあまり観察しなかったけれど、カンスゲやシダの仲間もこの季節に緑色が残っている。他に花が無いからなどという理由で申し訳ないが、シダもじっくり見ると、葉の形が様々なだけではなく、胞子嚢の形もそれぞれに違うことが分かってなかなか面白い世界のようだ。
月末の火曜日、明日からは雨になりそうだというので、午前の用を済ませてから急いで登ってきた。ここ数日のポカポカ陽気で山はすっかり白い衣を脱いでしまった。山頂の木陰などに僅かに残る程度だ。今が2月ということが信じられない。
山頂への道をゆっくり歩いていたら、トウゲシバがスッと伸びていた。葉の付け根には小さなバナナのような胞子嚢がプチプチとくっついている。地附山の主のようだったイケさんがここにあるよと教えてくれたシダだ。思わず近寄ってじっくり見つめる。
だんだん日が伸びてきて、午後からの山歩きも楽しめるようになってきた。帰り道、ゆっくりりんご畑の間の道を歩いていると、道端に薄青い広がりが見える。オオイヌノフグリだ。真っ白なハコベも咲いている。ヒメオドリコソウ、ホトケノザは薄い赤の蕾を膨らませている。色とりどりに春を知らせる花々が道端を飾り始めていた。