春の花が落ち葉の下からそろりそろりと開き始めた。ロゼット状にピッタリ土にくっついていた葉がゆっくり立ち上がり、木の枝の花芽に色がついてきた。待ち望んでいた春がそこまできている。
とは言っても長野の春はイタズラ好きで、冬の後ろに隠れている。時々ちらりと姿を見せてびっくりさせられる。茶臼山の球根広場に行ったのは2年ほど前か、一面に広がるクロッカスの花にびっくりしたが、今年もそろそろ咲き出しているのではないだろうか。
早朝まで雨だったので、ゆっくり出発。長野市内ではあるが南に位置する茶臼山までは車で30分以上かかる。目指す茶臼山植物園はまだ冬季閉鎖中(3月20日くらいに開園予定)だが、近所の人がたくさん散歩している。今日もすれ違った女性が「クリスマスローズが咲き始めましたね」とニコニコ。
私たちは薬草園の名札を見てから植物園のこども広場の中を歩く。名札を見たかったわけではないが、まだ芽吹いているものはなく、茶色い種がしがみついているものが何種かあったくらいで、薬草園の中はまだ冬の眠りについていた。
昨年たくさん見つけたセンボンヤリの芽吹きが始まっているのではないかというのが今日の目的の一つ。だが、昨年見つけたブッシュの奥をのぞいてみたが、タネを飛ばした茎がたくさん立っているばかりで、緑の芽はまだ見られない。
今朝までの雨がここでは雪になったのか、日陰には雪が残っている。家を出る時は厚く空を覆っていた雲が少しずつちぎれて薄くなり、青空が増えてきた。歩き始めた時には寒かったが、だんだん暖かくなり、上着を脱ぐ。 植物園上部の球根広場にはクロッカスが一面に花を立ち上げている。まだ青空が少ないので、つぼんでいるものも多いが、薄紫に白、時々濃い紫のクロッカスが優しい草原を作り出している。黄色はもう終わりらしく、萎れているものが多い。
クロッカスを眺めながら山道に入る。雪は日陰にしかないが、道はかなりぬかるんでいるので、急斜面は滑る。ゆっくり登っていると、登山道のすぐ脇になんだか怪しいものが・・・。これはタヌキだね、タヌキのため糞だ。こんなに道のすぐ近くにあるのは珍しい。凍っているからか、匂わないけれど、暖かくなってくると匂うかもしれないね。
たくさんの倒木を横目で眺め、近くの木にはちょっと目を凝らし、粘菌を探すけれど見つからない。昨年の胞子を飛ばしたあとはあるけれど。粘菌もまだこれからだね。
さて山頂に向かおう。今日は西の空に雲が多くアルプスの展望は期待できないから、まずゆっくり山頂へ向かう。スギとヒノキの森からは風に乗ってシャワーが降ってくる。昨日の雨雪が枝に残っていたのだろう。細かいシャワーが光に照らされて美しい。まだ雪が残っている斜面を横目に見ながら山頂へ。山頂は落葉樹も多いので明るい。
山頂は見晴らしがないので、北アルプス展望台に行ってみよう。多分雲ばかりだよねと話しながらぬかるんだ道を進む。そうは思っても行って見ないと気が済まないのが私たち。
確かに、一面の雲。だが、爺ヶ岳と鹿島槍ヶ岳の裾野部分が雲の下から見えていた。崖に残った雪渓が白く美しい。北アルプスのスカイラインを隠した雲は横一直線に伸びてその上には青空が広がっている。面白い雲だね。山のある地形は雲が湧くんだろうかなどと話しながら煎餅をボリボリ齧った。
見晴らしはあまり良くはなかったけれど、大きく開けた空間は気持ちが良い。十分楽しんで、小腹も満たし、戻ることにしよう。
今日は夫の楽しみがもう一つあった。それは線路を見下ろすこと。今日は篠ノ井駅あたりに長い貨物列車が停まっていて、大喜び。最近貨物列車を見ることはずいぶん少なくなったように思う。隣を走る電車に比べると圧倒的な存在感だ。そういう私は鉄ちゃんではないけれど、電車に乗って旅をするのは好きだ。
帰りは見つけておいたフキノトウつみを楽しむ。落ち葉の下から顔を出したフキノトウの若緑はいつ見ても美しい。輝くような、ちょっと透けるような柔らかい黄緑、春一番のお楽しみだ。あっちこっちを指さし、「あ、そこ」「これはまだ小さいかな」「わぁ〜大きいのがあった」などと、まるで子供だ。
ビニール袋に収穫物を入れ、ルンルンと植物園に戻る。今日の夕食のお供は蕗味噌。