先日頼朝山から裾花川を見下ろしたら、カメラマンがたくさん川辺にいるのが見えた。ハヤブサが今年も子育てをしているのだろう、行ってみようか。裾花川までは街の中を行くが、大きな神社を通ったり、古い味噌蔵の脇を通ったり幾通りも道を変えて楽しめる。
のっそり出かけて行ったが、今日はカメラマンの数が少ない。卵が孵って雛が動くようになるまで静かな時期なのだろうか。それでも数人のカメラマンが大きな望遠レンズをつけて三脚を立てている。
私たちは小さなカメラを持っているだけだから、ハヤブサの巣はあのあたりか〜と崖を見上げて通り過ぎる。対岸の崖の下には柳の木だろうか、立木が成長してきて崖の下半分は見えなくなってしまった。裾花川の水量は多く、流れも早い。雪解け水を集めてくる季節だ。
水辺の散策は気持ち良いので時々訪れていたが、今年は初めてだ。季節によってたくさんのカモが浮いていたり、カラの混群が水浴びしていたりして面白い。紫のセージの仲間のような鮮やかな花が満開で、キチョウが止まっている。アキギリのような花の形だけれど、葉が大きくて、特定できない。でも水辺にすっくと立っていて美しい。園芸種だろうか、どこかの庭から逃げ出してきたのかもしれない。
ハヤブサの営巣しているあたりを避けて川辺にのんびり立つ。ふと黒いものが水辺に現れた。カワウが水中から出てきた。黒い体が濡れて光っている。見ているとカワウは大きな石の上に上がった。チャンスとカメラを向けた。鳥たちは動きが早く、素人カメラマンにはなかなかその姿がとらえられない。
ところが見ているとカワウは大きく羽を広げてじっとしている。今日は雲もあるが、今はその切れ目から太陽が眩しく照っている。カワウは太陽の光を浴びてのんびりしている。羽を大きく広げたまま、あっちを見たりこっちを見たり、首だけを動かしている。
夫が「ロットバルトだ」と笑う。ロットバルトはバレエ『白鳥の湖』に登場する悪魔だが、彼は黒い鳥の姿をしている。確かに悠然と大きく羽を広げて立つ姿はロットバルトだ。水鳥は潜るために体が重く、水中を素早く動くために足が体の後ろ側についているそうで、立つと直立姿勢になる。そういえば他の小鳥は体が地面と平行になって歩いている姿を見慣れている。時々嘴で地面を突いているのも、体が直立だと難しいかもしれない。
「日光浴しているんだ」と、話しながら、私たちもしばらくカワウと一緒に日光浴をしていた。カワウの羽には撥水力が少なく、長く潜っていると濡れてしまうので時々乾かす必要があるという。他の鳥も寄生虫退治のために日光浴するらしいけれど。
しばらく見ていたら、日光浴も済んだのか、上流目掛けて飛び立った。カワウは水の上を助走をつけるように飛沫を上げながら進み、飛び立ったと思ったら川面に沿ってあっという間に見えなくなった。
カワウは行ってしまったが、小さな鳥たちが忙しく動いている。カルガモも見える。流れが早いので、岸辺の灌木が茂ったあたりに潜っている。水辺が好きなセキレイの仲間が入れ替わり川の真ん中の石にやってくる。尻尾を上下に振ってちょっと忙しそうだ。ちょこちょこと歩いてさっと飛んでいく。彼らはどんな目で周囲を見ているのだろう。
大きな木の梢からも小鳥の声が聞こえるが、葉に隠れて全身が見えない。大きく枝を張り巡らした木は小鳥にとって格好の隠れ場所になりそうだ。奇数羽状複葉の葉が広がりつつある様子はサワグルミの木かな。葉が広がり始めているから小鳥の姿はますます見えなくなっていくだろう。しなうように下がった枝を見ると昨年の葉痕が見える。花芽らしいのが膨らんでいるが、まだ開いていないのではっきりわからない。
水辺の散歩をたっぷり楽しんだのでそろそろ帰ろうか。家々が近くなってくると、ツバメがヒュンヒュンと空を飛ぶ。素早く飛んで一気に旋回していく。飛びながら餌をとっているのか、あっちからこっちから飛び交っている。素早い動きをカメラで追うけれど、全く捉えられない。夫と二人でかなり挑戦したが、難しい。諦めて帰ろうとした頃に夫が「つかまえた」。見ていた時は羽をいつも横から上に動かしているように見えたけれど、こんなに下まで下げていたのだと驚く。
素早く飛び交うツバメさんたちに心の中でエールを送りながら帰路についた。